事業承継税制とは?
近年、中小企業の経営者の高齢化が進んでおり、事業承継が課題となっています。
今後、廃業を予定している企業は多く、平成28年の中小企業庁発表では60歳以上の経営者のうち50%超が自分の代で事業をやめる予定との調査結果が出ています。
廃業の理由は色々とあるようですが、その中で、後継者へ会社の株式を引継ぐ際の贈与税や相続税の負担が障害の一つとして挙げられます。
事業承継税制は中小企業の株式を、一定の条件のもと先代経営者から後継者へ贈与又は相続により引継いだ場合に、贈与税又は相続税の納税を猶予し、最終的には免除することができる制度になります。
この制度は中小企業経営承継円滑法による税制措置のため、都道府県にその認定を受ける必要があり、事業承継後は一定の書類を継続して都道府県と税務署へ提出する必要があります。
平成30年度の改正では、これまでの制度を「一般措置」と位置付け、改正により拡充された制度を「特例措置」と位置付けています。
そのため、これまでの制度についても残る形となりました。
平成30年度改正点
平成30年度改正で創設された特例措置については、5年以内(平成30年4月1~平成35年3月31日)に特例承認計画を各都道府県へ提出する必要があり、適用期限については10年以内(平成30年1月1日~平成39年12月31日)の贈与又は相続を対象に適用することができます。
改正の内容は以下の通りとなります。
【対象株式数と納税猶予割合】
これまでの制度の一般措置では、先代経営者から贈与又は相続により取得した株式等のうち、株式総数の2/3までの株式等が対象でしたが、特例措置では上限が無くなりました。
また、納税を猶予する割合についても、これまでは贈与税が100%で相続税が80%でしたが、相続税についても100%へ拡大されました。
これにより、事業承継時の贈与税又は相続税の金銭的負担の必要がなくなり、例えば相続税の場合これまでの最大53%(2/3×80%)の猶予でしたが、100%まで猶予されることとなります。
【承継パターン】
一般措置では一人の先代経営者から一人の後継者へ贈与又は相続される場合のみが対象でしたが、特例措置では親族外を含む複数の株主から、代表者である複数の後継者(最大3人)への承継も対象となりました。
【雇用確保要件】
一般措置では、事業承継後の5年間平均で、雇用の8割を維持することが必要であり、仮に維持できなかった場合には猶予された税額の全額を納付する必要がありました。
特例措置については、この要件は実質的に撤廃されました。
(雇用維持が出来なかった理由が経営悪化又は正当なものと認められない場合は認定支援機関の指導・助言を受ける必要があります。)
【事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除】
一般措置では後継者が自主廃業や売却を行う場合、経営状況の悪化により株価が下落していても、事業承継時の株価をもとに計算し猶予された税額を納付する必要がありました。
特例措置においては、売却時や廃業時の株価をもとに税額を再計算して、事業承継時の税額との差額が免除可能となりました。
【相続時精算課税の適用】
一般措置では相続時精算課税制度は、直系卑属への贈与のみが対象でしたが、特例措置においては、贈与者の子や孫ではない場合でも適用が可能となりました。
まとめ
ここまで、事業承継税制の改正点の内容についてご説明いたしました。上記のとおり、猶予額や猶予対象者の拡大、雇用確保要件などの事業承継後のリスクの軽減措置がもりこまれ、この制度は使いやすくなりました。
では、事業承継を考えている全ての中小企業にメリットがあるものでしょうか?
事業承継税制は贈与税や相続税の納税を猶予する制度ですから、そもそも税額が生じなければメリットがありません。
税額が生じない場合とは、例えば累積の赤字が多額にある企業などが該当します。そういった企業の場合は株価があまりつかないことが予想されるため、通常の贈与又は譲渡を行っても、後継者の贈与税又は相続税の負担は大きく生じないことになります。
また事業承継税制は適用するためには、事前の計画書提出、円滑化法の認定や事業承継後の継続的な書類の提出など、手続き上の負担があり、事業承継後のリスクについても軽減されたとはいえ完全に無くなったわけではありません。
そのため先代経営者の退職金支給など、一般的な事業承継対策で充分株価が抑えられる場合は、事業承継税制より一般的な事業承継対策の方が有効かと思われます。
もちろん、一般的な事業承継対策で株価が抑えられず、高額の株価が生じるような企業については大変有効な制度ですので、今後、事業承継をお考えの経営者の方については、税理士などの専門家に総合的にご相談いただくのがよろしいかと思います。
・2018年6月19日 公開