税務お役立ち情報

2017年度税制改正のなかから、試験研究税制について解説します。

 

現行の試験研究費の総額に係る税額控除制度について

試験研究費の総額に係る税額控除制度

1.制度の概要
試験研究費の総額に係る税額控除制度は、その事業年度において損金の額に算入される試験研究費の額がある場合に、その試験研究費の額の一定割合の金額をその事業年度の法人税額から控除することを認めるものです。

 

2.適用対象法人
この制度の適用対象法人は、青色申告法人です。

 

3.適用対象年度
この制度の適用対象年度は、次に掲げる事業年度以外の事業年度です
①解散(合併による解散を除きます。)の日を含む事業年度
②清算中の各事業年度

 

4.試験研究費の額
この制度の対象となる試験研究費の額とは、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する原材料費、人件費及び経費のほか、他の者に試験研究を委託するために支払う費用などの額をいいます。ただし、試験研究に充てるために他の者から支払いを受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額が試験研究費の額となります。

 

5.税額控除限度額
この制度による税額控除限度額は、その事業年度の損金の額に算入される試験研究費の額に、次の①の税額控除割合を乗じて計算した金額です。

 

ただし、税額控除限度額がその事業年度の法人税額の25%相当額を超える場合は、その25%相当額を限度とします。
なお、「試験研究費の額が増加した場合等の税額控除制度」により平成20年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する各事業年度において、次の①又は②に該当する場合には、いずれかの選択適用により上記1の制度による税額控除限度額とは別枠で税額控除ができます。このときの税額控除限度額はそれぞれ次のとおりです。

 

ただし、これらの税額控除限度額がその事業年度の法人税額の10%相当額を超える場合は、その10%相当額とします。

①平成26年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する各事業年度
次の(5)の増加試験研究費の額が、次の(2)の比較試験研究費の額の5%を超え、かつ、適用年度に損金の額に算入される試験研究費の額が次の(3)の基準試験研究費の額を超える場合

税額控除限度額=増加試験研究費の額×30%(次の(6)の増加試験研究費割合が30%未満の場合には増加試験研究費割合)

 

②試験研究費の額が次の(4)の平均売上金額の10%相当額を超える場合(平成20年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する各事業年度において適用されます)
税額控除限度額=(試験研究費の額―平均売上金額×10%)×超過税額控除割合
超過税額控除割合=(試験研究費割合―10%)×0.2

 

(1)税額控除割合
税額控除割合は、試験研究費割合が10%以上の場合は10%です。ただし、試験研究費割合が10%未満である場合は次の算式によって計算した割合です。
税額控除割合=(試験研究費割合×0.2)+8%

 

(2)比較試験研究費の額
比較試験研究費の額とは、適用年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度において損金の額に算入される試験研究費の額を平均した額をいいます

 

(3)基準試験研究費の額
基準試験研究費の額とは、適用年度開始の日前2年以内に開始した各事業年度において損金の額に算入される試験研究費の額のうち最も多い額をいいます

 

(4)平均売上金額
平均売上金額とは、適用年度及び適用年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度の売上金額の平均額をいいます

 

(5)増加試験研究費の額
増加試験研究費の額とは、適用年度に損金の額に算入される試験研究費の額から比較試験研究費の額を控除した残額をいいます

 

(6)増加試験研究費割合
増加試験研究費割合とは、増加試験研究費の額の比較試験研究費の額に対する割合をいいます

 

6.適用要件
この制度の適用を受けるには、控除の対象となる試験研究費の額及び控除を受ける金額を確定申告書等に記載するとともに、その金額の計算に関する明細書を添付して申告する必要があります

 

7.繰越税額控除限度超過額等の繰越税額控除
この制度による税額控除の適用を受ける場合において、税額控除限度額が法人税額の25%相当額を超えるため税額控除限度額の全部を控除しきれなかったときには、その控除しきれなかった金額については平成27年4月1日以後に開始する事業年度において法人税額から控除することはできません。

 

改正された研究開発税制

競争力強化のため、あらゆる業種の研究開発投資を後押しするため、研究開発税制の見直しが行われました。

 

1.試験研究費の総額に係る税額控除制度
これまでの総額型について、企業の研究開発投資の一定割合を単純に減税する形となっている構造を見直し、試験研究費の増減に応じた税額控除率とされました。

 

控除税額=試験研究費の額×税額控除割合

 

① 税額控除割合が、増減試験研究費割合の次の区分に応じたそれぞれ次の割合とされました。

イ.増減試験研究費割合が5%を超える場合
9%に、その増減試験研究費割合から5%を控除した割合に0.3%を乗じて計算した割合を加算した割合(上限10%)
上記の上限は、平成29年4月1日から平成31年3月31日までの間に開始する各事業年度については、14%とする措置が講じられています。

ロ.増減試験研究費割合が5%以下である場合
9%から、5%からその増減試験研究費割合を減算した割合に0.1を乗じて計算した割合を減算した割合(下限6%)

※増減試験研究費割合
=(試験研究費の額-比較試験研究費の額)÷ 比較試験研究費の額

比較試験研究費の額・・・前3年以内に開始した各事業年度に損金算入される試験研究費の平均額

 

② 平成29年4月1日から平成31年3月31日までの間に開始する各事業年度における試験研究費割合が10%を超える場合のその10%を超える事業年度において、税額控除額の上限を、当期の調整前法人税額の25%相当額に、その調整前法人税額に試験研究費割合から10%を控除した割合に2を乗じて計算した割合(上限10%)を乗じて計算した金額を加算した金額とする

 

※試験研究費割合
= 試験研究費の額 ÷ 平均売上金額

平均売上金額・・・当該事業年度及び前3年以内に開始した各事業年度の売上の平均額

 

2.中小企業技術基盤強化税制

① 平成29年4月1日から平成31年3月31日までの間に開始する各事業年度における増減試験研究費割合が5%を超える場合のその5%を超える事業年度において、次の措置が講じられました。

 

イ.税額控除割合を、12%に、増減試験研究費割合から5%を控除した割合に0.3を乗じて計算した割合を加算した割合(上限17%)

 

ロ.税額控除額の上限を当期の調整前法人税額の35%相当額とする措置

 

② 上記1②と同じ措置が講じられました。

※ 中小企業者

①資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下の法人
(下記に該当する法人を除く)

イ、大規模法人(資本金等が1億円超の法人又は常時使用する従業員の数が1,000人超の法人)に発行済み株式等の総数等の1/2以上を所有されている法人
ロ.2以上の大規模法人に発行済み株式等の総数等の2/3以上を所有されている法人

②資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人

 
特別試験研究費の額に係る税額控除制度
大学等又は他の者との共同研究におけるその共同研究に係る法人の自社外試験研究費の額及び大学等又は特定中小企業者等への委託研究におけるその委託研究に係る法人の委託試験研究費の額について、大学等、他の者又は特定中小企業者等が支出するこれらの試験研究に要した費用の項目の限定が撤廃され、これらの試験研究に係る試験研究費の額のうち、これらの試験研究に要した費用であってこれらの法人が負担したものに係るものとされました。

 

4.試験研究費の増加額又は平均売上金額の10%相当額を超える試験研究費の額に係る税額控除制度
試験研究費の増加額に係る税額控除制度がその適用期限(29年3月31日)の到来をもって廃止されるとともに、平均売上金額の10%相当額を超える試験研究費の額に係る税額控除制度の適用期限が平成31年3月31日まで2年延長されました。

ただし、この制度の対象となる事業年度からは、上記1②若しくは2②の措置又は上記2①ロの税額控除割合の上限に係る措置の適用を受ける事業年度は除外されます

 

5.試験研究費に下記①の試験研究のために要する下記②の費用が追加されました。

①試験研究対価を得て提供する新たな役務の開発を目的として次の全てが行われる場合におけるそれぞれ次のもの

 

イ、大量の情報を収集する機能を有し、その機能の全部若しくは主要な部分が自動化されている機器若しくは技術を用いる方法によって行われた情報の収集又はその方法によって収集された情報の取得

 

ロ、上記イの収集に係る情報又は上記イの取得に係る情報について、一定の法則を発見するために、これらの情報の解析に必要な確率論及び統計学に関する知識並びに情報処理に関して必要な知識を有すると認められる者により情報の解析を行う専用のソフトウエアを用いて行われる分析

 

ハ、上記ロの分析により発見された法則を利用したその役務の設計

 

ニ、上記ハの設計に係る上記ハの法則が予測と結果とが一致することの蓋然性が高いものであることその他妥当であると認められること及びその法則を利用したその役務がその目的に照らして適当であると認められるものであることの確認

 

②費用
上記①に係る次の費用
イ、その試験研究を行うために要する原材料費、人件費及び経費

 

ロ、他の者に委託をして試験研究を行うそのものに対して支払う費用

 

まとめ

改正概要は以下の通りです

 

1.増加型を廃止した上で、総額型に投資増加インセンティブを組み込み、試験研究費の増減率に応じて6~14%の範囲でメリハリがつく仕組み等を導入
(現行制度:8~10%)

 

2.中小企業向け支援を強化するため、従来の控除率12%・控除上限25%を維持した上で、試験研究費が5%超増加した場合に控除率(最大17%)・控除上限(10%)を上乗せする仕組みを導入

 

3.オープンイノベーション型の手続要件を企業実務に合わせて緩和

 

4.高水準型の適用期限を2年間延長する

 

5.第4次産業革命型の「サービス」の開発を支援対象に追加
(「試験研究費」の定義の見直し)

 

平成29年度改正により、研究開発税制は、大企業向けの総額型、中小企業向けの中小企業技術基盤強化税制ともに試験研究費の増減割合に応じて控除税率が変動する仕組みに改められています。
加えて、これらの控除税額の上限を上乗せする特例が設けられている。

 

特例は2つある。

大企業は試験研究費割合が10%超の場合に控除税額の上限を最大10%上乗せする特例です。
中小企業者等は、同特例に加えて増減試験研究費割合が5%超の場合に控除税額の上限を10%上乗せする特例も選択できる。
いずれも高水準型とは選択適用など、適用が複雑になってきています。

 

※試験研究費割合
= 試験研究費の額 ÷ 平均売上金額

平均売上金額・・・当該事業年度及び前3年以内に開始した各事業年度の売上の平均額

 

※増減試験研究費割合
=(試験研究費の額-比較試験研究費の額)÷ 比較試験研究費の額

比較試験研究費の額・・・前3年以内に開始した各事業年度に損金算入される試験研究費の平均額

 


・2017年9月4日 公開


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